今回の作品「サンズディア」について

sansdeer2010-12-13



ビル(・ウェルズ)さんが、日本にきて
一緒に録音したのが2年前の夏、でした
からずいぶん時間が経ってしまったなあ
というのが率直な感想です。


しかし、その後ときどき折りにふれ
そのときの録音テイクを聴きかえして
みると、瑞々しさは失われることはなく、
作品としての強度があると同時に、ある種の
輝き(煌き?)が感じられたので、今まで
他の機会に録音したものの中で、その強度と
煌きに共振しうると感じた2曲「まるい時間」
「私の運命線」をくわえ、さらにやや特殊な発想
により作曲、録音された曲「untitled 6」を
素材として津田さんにお預けし、最終的に形になった
ものを比較的最近つくった作品として近況報告(?)
のように入れました。


自分の作品の最大の特徴は、作曲時の着想や意図、
また譜面については言語化(アナリーゼ)すること
ができるのですが、演奏して録音されたものについては、
それがどういうものなのか、自分自身では言葉にあらわす
ことはできない、ということだと思っています(例外も
なかにはありますが)。


たとえば、今回のCDの1曲目に収録している
「秋の流れ」について書いてみると、もともとの
着想は、ジャズにおける即興演奏のあり方を、
もっと別のやり方で活かすことができないだろうか、
という事にあります。


ジャズにおける即興演奏は、後年には色々な方法が
試みられましたが、いわゆるバップ(チャーリー・
パーカーに代表されるビバップ、後年はハードバップ
という、より形式化されたスタイルになりました)
における即興演奏は、「スタンダード」と呼ばれる
アメリカのヒット曲のコード進行を土台として行われて
いたかと思います。


そこでの即興演奏のあり方は、(もちろん個々のミュージシャン
によってモチベーション、意図、美学、テクニックは様々ですが)
基本的にはその「スタンダード」曲のコード進行をつかって
いかに独創的な演奏をするか、ということにあったのではないか
と思います。


具体的には、そのコードに含まれている音(Cならドミソとか)、
含まれていないけど使ってもあまり違和感のない音、違和感はあるけど、
うまく使うとかっこいい音、次のコードの音(中身やバリエーションに
ついては↑と同じ)、その曲のメロディー、その瞬間のコードにはない
けどその曲のどこかにある音、または関係ない(?とされる)音などを
そのときの感情や指のはしり、他の人の演奏や偶然などに影響されながら

ひとつの流れ(旋律)をつくること、ではなかったかと思います(概ね)。


その美しさ、ダイナミズムについて今ここで僕があえて言葉を書き
つらねる必要はないと思えるほど、20世紀のポピュラーミュージック
におけるバップの存在感、影響力の大きさは計り知れないものがあった
と思います(そのスタイルが世界中に伝播したということでは、ビートルズ
と同等の影響を与えたと言っても過言ではないはずです。もちろん社会に
あたえた影響、リスナー人口という点では4人組は抜きんでていると思いますが)。


(あえてざっくりというと)ポピュラーソング、たとえばシナトラが歌って
大ヒットした曲を、コード進行だけは一緒で、でもまったく違った抽象的な
美しい旋律をもった曲にする、バップのあり方に心をうばわれたとして、
ある日はたと気がついたのですが、そういった構造(音楽の成り立ち、
演奏方法)を活かして別のことができるのではないか、と思ったんです。


自分自身の気持ちや感情、もっとこうだったら良いのになあ、と思う

ある種の理想(イデア)を体現するとしたら、バップと同じように演奏する
より自分にぴったりくるやり方があるのではないかと。


それにはまずバップの特徴のひとつであるソロまわしは基本的にやらない。
研ぎ澄まされた即興演奏を、ひとりひとりの個性を感じながら聴くのは
本当にスリリングなことですが、僕としてはより世界のあり方に演奏を
近づけたかったんです。ひとつの時間、ムードを共有していながら、

あちこちでいろいろなことが生起する、われわれが生きる世界のあり方に。


そこでの演奏は、もちろん抽象的な美しさをめざしても良いし、でも鼻歌
のようなものでも良いんです。ギターが鳴らすコードを聴いてくれて、
感じたことがあれば、それはどのような形で表現されても良い。


前作『Grand Tour』でいえば、「小舟」がまさにそうですね。
ひょっとしたら、お聴きになられた方でお気づきになられた方が
いらっしゃるかもしれませんが、あの曲のコード進行は、ホベルト
メネスカルという人の「小舟」という曲と一緒です(ボサノヴァ
曲としてはよく知られているので、聴いてみたらああこの曲かーと
なるかもしれませんね)。


ただ、おそらく両方を聴きくらべたとして、同じ曲だね、という
人はほとんどいないような気がします。メネスカルさんの曲にある、
メロディーはどこにもなく、あるのは漂うように流れていく、
アルト・サックスやマンドリン、ノコギリやホースの旋律(や
ドローン)などです。


はじめたころは、コード進行をもとに、即興演奏でサウンドスケープ
をつくる、とか説明してお願いして一緒に演奏してもらっていたような
気がします。


それは今でもそんなに遠くないように思える、というか、コードが進んでいく、
ということ以外の形式的な決まりごとはいっさいなく、ある種の総体として
演奏がある、としかいえない状態であれば、僕としては満足なんです。


その日集まってくれた人、その日の感じ、でどんな演奏になるか
それだけが楽しみというか。


だから、言葉であらわすとしたら、「演奏」としか言えない。


ジャンルや形式に拠っていないので、言葉の足がかりになるようなものが
少ない、とも言えるのかもしれません。


なにが言いたかったのかというと、どこが好きなのか、すごいと思うのか
うまく言葉にできないけど好き、ということが僕は美術や映画や音楽を
体験したときに思うことがあるのですが、そういうものでないとだめ、
ということでなく、またこういうところが好き、とはっきり言えるもので好きな
ものも本当にたくさんありますが、なにかわからないけどわくわくする、とか
共感するという気持ちを、もしまだ見ぬどなたかと共有することができれば、
本当に幸せです。ということです。


この作品については、他にもいろいろ書きたいことがたくさんあるのですが、
長くなってしまったのでこのへんで。


またです。



sans deer 『サンズディア』
FALL5/Bookend-02 1,365円


くわしくはこちらでご覧いただけます。
http://falldays.exblog.jp/13711636/


今のところ、置いてくださっているお店は


TOWER 渋谷5F
TOWER 新宿
TOWER 名古屋近鉄パッセ
ディスクユニオン


FALL(西荻窪
興文堂書店(鹿沼
iTohen(大阪)
新星堂桑名ビブレ店(三重)
PASTEL RECORDS(奈良)
ガケ書房(京都)


amazon ほか



です。もし、お出かけの際に見かけたら手にとってみて
いただけますと嬉しいです(タワーレコード渋谷店、
新宿店では試聴機に入れてくださっているようです。
ありがとうございます!)


お取扱いについてのお問い合わせなどは、
teruoki@nifty.com(FALL)までお気軽に
お願いいたします。


よろしくお願いいたします。